深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis: DVT)は、理学療法士が臨床現場で遭遇する可能性が高い重要な疾患の一つです。特に入院患者や長期臥床を強いられる患者さんにとって、DVTは生命を脅かす可能性のある深刻な合併症となり得ます。本記事では、新人理学療法士や学生の皆さんに向けて、DVTの基本的な知識からリハビリテーションにおける注意点まで、包括的に解説していきます。
DVTの定義と発生メカニズム
DVTは、主に下肢の深部静脈内に血栓(血の塊)が形成される疾患です。通常、血液は静脈を通って心臓に戻りますが、何らかの原因で血流が滞ると、血栓が形成されやすくなります。
血栓形成の主な要因は、以下の「ヴィルヒョウの3徴」として知られています:
- 血流うっ滞
- 血管内皮障害
- 血液凝固能亢進
これらの要因が重なることで、DVTのリスクが高まります。
ちなみに動脈の血栓は脳梗塞、心筋梗塞などが代表的です。
DVTの主な症状
DVTの症状は、必ずしも明確ではありません。しかし、以下のような症状が現れることがあります。
- 片側の下肢の腫脹
- 患肢の疼痛や圧痛
- 皮膚の発赤や熱感
- 歩行時の違和感や痛み
これらの症状が突然現れた場合、DVTを疑う必要があります。何か異変に気付けばすぐにDrやNsに報告するようにしましょう。
DVTの危険因子
DVTの発症リスクを高める主な因子には以下のようなものがあります。
- 長期臥床や不動状態
- 手術後(特に整形外科手術)
- 肥満
- 高齢
- 妊娠・出産
- 悪性腫瘍
- 外傷
- 脱水
- 経口避妊薬の使用
- 喫煙
- 既往歴(DVTや肺塞栓症)
理学療法士として、カルテからしっかりと情報取集をし、これらの危険因子を持つ患者さんに対しては特に注意を払う必要があります。
DVTの診断
DVTの診断には、以下のような方法が用いられます。
- 血液検査(D-ダイマー値の測定)
- 超音波検査
- 造影CT検査
- 静脈造影検査
うちの病院では必ず採血を行い、Dダイマーの数値は電子カルテ上に書かれています。その後DVTの可能性が考えられる場合には2~4の検査を行っています。情報収集が大事です!
DVTの治療
DVTの主な治療法には以下のようなものがあります
- 抗凝固療法(ヘパリン、ワーファリンなど)
- 血栓溶解療法
- 下大静脈フィルター留置
- 圧迫療法(弾性ストッキングの着用)
リハビリを行う上では下腿のリラクゼーションを行っていいかの確認、ワーファリン等の投薬がある場合は出血しないようにより注意する等が必要になります。
DVTとリハビリテーション
1. 早期離床の重要性
DVTの予防において、早期離床は非常に重要です。長期臥床は血流うっ滞を引き起こし、DVTのリスクを高めます。そのため、患者の状態に合わせてとはなりますが、できるだけ早期からベッドサイドでの運動や座位・立位訓練を開始することが推奨されます。
2. 段階的な運動プログラム
DVTのリスクがある患者さんに対しては、以下のような段階的な運動プログラムを考慮します
- ベッド上での下肢の自動運動(足関節の底背屈、膝・股関節の屈伸)
- 座位での下肢の自動運動
- 立位での重心移動訓練
- 歩行訓練
各段階で患者の状態を慎重に観察し、症状の悪化がないことを確認しながら進めていきます。
3. 圧迫療法の併用
弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法(IPC)などの圧迫療法は、DVTの予防に効果的です。理学療法士は、これらの装具の正しい使用方法や、装着中の皮膚状態のチェックなどについても指導を行います。
4. 水分摂取の奨励
適切な水分摂取は血液粘度を下げ、血流を改善します。理学療法士は、患者さんに十分な水分摂取を促すことも重要な役割です。
5. 患者教育
DVTのリスクや予防法について、患者さんやご家族に分かりやすく説明することも理学療法士の重要な役割です。特に、退院後の生活における注意点(長時間の同一姿勢を避ける、十分な水分摂取を心がけるなど)を具体的に指導することが大切です。
DVTの合併症:肺塞栓症
DVTの最も重大な合併症として、肺塞栓症(Pulmonary Embolism: PE)があります。これは、DVTで形成された血栓が血流に乗って肺動脈を閉塞する状態で、重症の場合は致命的となる可能性があります。
肺塞栓症の主な症状
- 突然の呼吸困難
- 胸痛
- 頻脈
- 失神
理学療法士は、これらの症状に常に注意を払い、疑わしい症状が現れた場合は直ちに医師、看護師に報告する必要してください。
リハビリテーション中の注意点
- 患者の全身状態の観察
運動中は常に患者の顔色、呼吸状態、疲労度などを観察し、異常がないか確認します。 - 段階的な負荷増大
急激な運動負荷は避け、患者の状態に合わせて徐々に運動強度や時間を増やしていきます。 - 適切な休息
運動と休息のバランスを取り、過度の疲労を避けます。 - 水分補給
運動中・後の適切な水分補給を促します。 - 症状の再確認
運動前後で下肢の腫脹や疼痛の変化がないか確認します。 - 多職種連携
医師、看護師など他の医療スタッフと密に情報共有を行い、患者の状態変化に迅速に対応できる体制を整えます。
まとめ
DVTは、理学療法士が臨床現場で遭遇する可能性の高い重要な疾患です。その予防と早期発見、適切な対応は、患者さんの安全で効果的なリハビリテーションを行う上で非常に重要です。
理学療法士として、DVTに関する知識を深め、リスクの高い患者さんを見極める力を養うことが求められます。また、適切な運動療法や患者教育を通じて、DVTの予防に積極的に貢献することが期待されています。
常に最新の知見をアップデートし、多職種と連携しながら、患者さんの安全と早期回復を目指して日々の臨床に取り組んでいくことが、プロフェッショナルな理学療法士としての姿勢といえるでしょう。
コメント
コメント一覧 (2件)
とても分かりやすく読みやすいですね
リガサポさん、Xでもお世話になっております。ありがとうございます!